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東京高等裁判所 平成9年(行ケ)57号 判決 1997年11月13日

長野県長野市篠ノ井御幣川1104番地ノ3

原告

小山時夫

同訴訟代理人弁理士

松田喬

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

上村勉

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和59年審判第4420号事件について平成9年1月23日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1(1)  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年12月31日、別紙目録記載のとおりの商標(以下「本願商標」という。)につき、指定商品を平成3年政令第299号による改正前の商標法施行令(以下「改正前商標法施行令」という。)別表第32類「乾麺、生蕎麦、そばがき、そば粉」として商標登録出願(昭和56年商標登録願第109758号。以下「本件出願」という。)をしたところ、昭和58年12月23日拒絶査定を受けたので、昭和59年3月12日審判を請求した。特許庁は、この請求を昭和59年審判第4420号事件として審理した結果、平成9年1月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月5日原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)<1>  よって判断するに、本件出願において指定商品に含まれる「そば粉」は改正前商標法施行令別表第32類に区分される商品ではなく、同第33類に区分される商品であることは、同第33類に属する商品として「粉類」が例示されており、さらに平成3年通商産業省令平成3年第70号による改正前の商標法施行規則(以下「改正前商標法施行規則」という。)別表第33類の「粉類」中に「そば粉」が例示されていることからも明らかであると認められる。

<2>  そして、本件出願に係る指定商品のうち「そば粉」以外は同第32類に区分される商品と認められる。

<3>  そうすると、本件出願は、二区分に亘る商品を指定しているものであって、平成3年法律第65号による改正前の商標法6条1項(以下「改正前商標法」という。)に規定の要件を具備していない。

(2)  したがって、本件出願は、改正前商標法6条1項の要件を具備しないとの理由により、これを拒絶した原査定は妥当であって、取り消すことができない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点のうち、(1)<1>、<3>は争い、<2>は認め、(2)は争う。

(1)  取消事由1(出願の一部放棄について)

特許法17条によれば、出願書類の補正は取消訴訟に移行後はなし得ないが、放棄は自由になし得るところである。

しかして、原告は、平成9年5月15日、特許庁に対し、本件出願における指定商品中「そば粉」を放棄する旨の出願一部放棄書(甲第2号証)を提出した。

したがって、本件出願が原査定の理由により拒絶されるいわれはない。

(2)  取消事由2(二区分に亘る商品を指定していないことについて)

「そば粉」と「そばがき」とは、そば粉の本来性に応じ、また、水分が乾燥により消滅し、ないし、適当の限度に消滅すればそば粉に復元するところに徴し、「そば粉」の本来性は「そばがき」と同一性なりと判断して誤りなしといい得るものであるから、「そば粉」と「そばがき」とが類別を異にすることが根本的に認容し得ないものである。

近時の電子レンジの普及により、「そば粉」から「そばがき」のごとき食品を焼成することなく、熟度高き食品に転変させることが可能な時世に至れば、「前項の商品の区分は、商品の類似の範囲を定あるものではない。」と規定する改正前商標法6条2項に徴し、「そば粉」と「そばがき」とは、当然類別を越えて類似商品たる対象である。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1、2は認める。

同3(1)は争う。本件出願につき提出されている出願一部放棄書は、平成9年4月22日付け(同月23日受付)のもの(乙第2号証)のみである。

同3(2)は争う。

2  反論

(1)  取消事由1について

審決がされて事件が審判の係属を離れ、手続の補正をすることができない時期に至って指定商品の一部放棄をしても、その効果を商標登録出願の時点に遡及させ、減縮した商品を指定商品とする商標登録出願にする効果は生じない。商標法68条の2の規定によれば、事件が審査、審判又は再審に係属している場合に限り、商標登録出願について手続の補正ができるものである。

原告主張の出願一部放棄書は、審決がされた平成9年1月23日より後に提出されており、事件が審査、審判又は再審に係属している場合のいずれにも該当しない段階で提出されたものである。

したがって、上記出願一部放棄書によっては、本件出願の指定商品を、出願当初に遡及させて「そば粉」を除いた指定商品とする効果は生じないものである。

(2)  取消事由2について

「そば粉」は改正前商標法施行令別表第32類に区分される商品ではなく、同第33類に区分される商品であることは、同第33類に属する商品として「粉類」が例示されており、さらに改正前商標法施行規則別表第33類の「粉類」中に「そば粉」が例示されていることからも明らかである。

そうすると、本件出願は、改正前商標法施行令第33類に区分される商品「そば粉」と同第32類に区分されるそれ以外の商品「乾麺、生蕎麦、そばがき」を指定するものであるから、政令で定める商品区分において二区分に亘る商品を指定しているものであり、本件出願は改正前商標法6条1項の要件を具備しないとの審決の認定、判断に何ら誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

審決がされて手続補正をすることができない時期に至って2以上の商品を指定商品とする商標登録出願について指定商品の一部放棄をしても、指定商品の一部を除外して残余の商品に指定商品を減縮し、その効果を商標登録出願の時点に遡及させ、減縮した商品を指定商品とする商標登録出願にする効果は生じないものと解すべきである(最高裁昭和56年(行ツ)第99号同59年10月23日第三小法廷判決・民集38巻10号1145頁参照)。

仮に、原告が平成9年5月15日付けで本件出願における指定商品中「そば粉」を放棄する旨の出願一部放棄書を提出した事実が認められるとしても、その放棄は、審決がされてその取消訴訟が当審に係属した段階でされたものであり、商標登録出願が審査、審判又は再審に係属している段階(商標法68条の2参照)でされたものではないから、本件出願を「そば粉」以外のものを指定商品とする出願とする効果は生じないものである(なお、この点は、原告が平成9年4月22日付け(同月23日受付)で本件出願における指定商品中「そば粉」を放棄する旨の出願一部放棄書を提出した事実が認められる場合(乙第2号証参照)であっても、同様である。)。これに反する原告の主張は採用できない。

そうすると、審決の本件出願の指定商品の認定に誤りはないから、原告主張の取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

<1>  本件出願における指定商品のうち「乾麺、生蕎麦、そばがき」が改正前商標法施行令別表第32類に属することは、当事者間に争いがない。

<2>  改正前商標法施行令別表でその第33類に属する商品として「粉類」が例示されており、更に改正前商標法施行規則別表第33類の「粉類」中に「そば粉」が例示されていることからすると、本件出願における指定商品のうち「そば粉」は、改正前商標法施行令別表第33類に属すると認められる。

原告は、「そば粉」と「そばがき」とは、そば粉の本来性に応じ、また、水分が乾燥により消滅し、ないし、適当の限度に消滅すればそば粉に復元するところに徴し、「そば粉」の本来性は「そばがき」と同一性なりと判断して誤りなしといい得るものであるから、「そば粉」と「そばがき」とが類別を異にすることが根本的に認容し得ないものであるとが、近時の電子レンジの普及により、「そば粉」から「そばがき」のごとき食品を焼成することなく、熟度高き食品に転変させることが可能な時世に至れば、「前項の商品の区分は、商品の類似の範囲を定めるものではない。」と規定する改正前商標法6条2項に徴し、「そば粉」と「そばがき」とは、当然類別を越えて類似商品たる対象であるとか主張するが、原告のこの点の主張は、上記に説示したところに照らし採用できない。

そうすると、本件出願は、二区分に亘る商品を指定し、改正前商標法6条1項に規定された要件を満たしていないものであるから、拒絶されるべきところ、これと同旨の審決の判断に誤りはなく、原告主張の取消事由2は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙

本願商標

<省略>

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